相続した賃貸用事業用地について、借主から借地期間延長の申出がありました。この延長について公正証書による契約を求められたのですが、必要なのでしょうか?
事業用地として賃貸している土地を相続しました。借主より借地期間の満了が近づいているため、改めて公正証書を作成し借地期間を20年延ばしてほしいとの要望を受けました。当事者間で延長の合意ができたとしても、改めて公正証書での契約が必要なのでしょうか。
ご相談のケースは事業用定期借地権に該当し、これには更新という概念がありません。借地期間を20年延ばすためには、改めて公正証書での契約が必要となります。
公正証書とは、契約を成立させるため等一定の事項について、公証人が公証役場で作成する公文書をいい、賃貸契約書等のような私文書に比べ、証明力や執行力が優れているという特徴があります。
ご相談のケースは事業用定期借地権に該当しますが、この契約は借地借家法に基づき、必ず公正証書によって作成することが義務付けられています。
また、この事業用定期借地権は、更新という概念がなく、契約期間の満了時に借地関係を終了させることを前提とした契約としているため、借主の要望に応えるためには、改めて公正証書での契約が必要となります。
公正証書で作成する目的は、一定の事項を公証人に証明してもらうことで、当事者間の法律紛争を未然に防ぎ、契約内容の明確化・安定化を図ることにあります。
公証人は、判事や検事等の法律関係の仕事に長年従事していた人の中から法務大臣により任命されます。また、公証人により作成された公正証書の原本は、原則として公証役場で20年間(特別の事由により追加保存の必要がある場合は、その事由のある間)保管されるため、紛失や盗難、改ざん等の心配はありません。なお、貸主借主には、正本または謄本が交付されます。
公正証書は、公的機関により作成された書面であるため、仮に裁判となった場合、証明力のある証拠書類として提出することができます。また、公正証書にあらかじめ強制執行認諾の内容を盛り込むことで、賃料の滞納が数ヶ月継続して発生した場合、裁判等の手続きを経ず強制執行が可能となります。
定期借地権には、事業用定期借地権の他に、一般定期借地権、建物譲渡特約付借地権がありますが、借地借家法で必ず公正証書での契約が義務付けられているのは、事業用定期借地権のみとなります。
公正証書で契約せず私文書での合意のみの場合、事業用定期借地権の効力は無効となり、普通借地権が設定された契約として取り扱われる可能性があります。
仮に、普通借地権として取り扱われた場合、契約の終了後も正当な事由がない限り更新は可能となります。期限付きの賃貸借ではなくなってしまうことにもなり兼ねないため、注意し認識しておくことが大切です。
公正証書での契約にあたり注意すべき主な事項として、事業用定期借地権は契約期間が長期(10年以上50年未満)となりますが、貸主からの中途解約は認められていないこと、また、期間内に借主が破綻する等の懸念があることから、経済的な与信を改めて事前に行う必要があることが挙げられます。今回のご相談のケースでは、20年間の延長となるため、その期間内に問題が生じないかどうかの検討が必要となります。
さらに、敷金の返還義務が相続人に移ることを想定しておくことも必要となります。敷金は、賃料の6ヶ月程度とする場合が多く高額となるため、相続人が敷金を返還できなくなるというリスクが生じる恐れがあります。
恐らくご相談者様は、相続により、当該事業用地とともに敷金も相続によって取得しているものと思われます。敷金は預かり金であることを認識し、契約の終了時期に関わらず、すぐに敷金が返還できるようにしておく必要があります。仮に敷金を相続していない、あるいは返還すべき敷金に満たない額しか相続していなければ、返還相当額の資金を何らかの方法によって確保しておく必要があるでしょう。
この他、契約にあたっては、賃料や契約期間等だけでなく、中途解約、原状回復義務、損害金等について、貸主に不利な事項はないか、契約内容が許容できるリスクの範囲内であるか等に留意する必要があります。今回の借地期間の延長に際して、従来の契約内容と照らし合わせながら、内容に問題がないか確認するとよいでしょう。
これらの注意事項等を考慮した上で、的確なアドバイスをしてくれる不動産会社もありますので、一度相談されるのも有用です。公正証書による契約でお悩みの場合は、当事務所までお気軽にご相談ください。
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