高齢の親の生活を支えるために、子が財産管理を行う方法として考えられる3つの契約と留意点について、ご紹介します。
母親が高齢で足が不自由なため、銀行で母親に代わって生活費を引き出そうとしたところ、本人が窓口に来なければ引き出せないといわれました。母親が元気なうちから、私がお金を管理してあげる手段はないでしょうか。
ご相談のケースのような、高齢の親の生活を支えるために、子が財産管理を行う方法として考えられる手段は、3つあります。いずれも契約となりますが、それぞれ留意点があります。詳細解説にてご確認ください。
民法上、他人に財産管理を委任するために、財産管理委任契約をお母様とご相談者様が結ぶということが考えられます。
財産管理委任契約は、法律上は有効ではあるものの、実務上は、金融機関が受任者(ご相談者様)のみの銀行訪問では預金の引き出しに対応してくれず、委任者(お母様)の同行を求められることがあるようです。
上記1の他、お母様に代わってお金を管理する手段としては、信託という仕組みがあります。信託とは、ある人のある財産を、ある人へ信じて託し、管理・処分・運用してもらうための法律行為です。
財産を託す人を委託者、財産を託される人を受託者、財産から生じる利益を享受する人を受益者と呼びます。今回のケースでは、お母様のお金をご相談者様が代わりに管理し、お母様のために出金できるようにすることが目的ですので、委託者および受益者がお母様、受託者がご相談者様となります。お母様が託した金銭を信託財産とする信託契約を、お母様とご相談者様で締結することで信託の効力が発生します。このような信託を「家族信託」といいます。
信託した金銭の所有権は、お母様からご相談者様に移転しますが、あくまでご相談者様が、お母様のために管理している金銭であるため、信託契約の目的に従う必要があり、自分のために使うことはできません。
また、本人所有のものとは別の財産であることを明確にするために、ご相談者様自身のお金と、信託されたお金を分けて管理する必要があります(信託法第34条)。信託口口座と呼ばれる信託金銭専用の口座を作成して管理することが望ましいでしょう。信託口口座については各金融機関で取り扱いが異なりますので、事前に金融機関へお問い合わせください。
なお、信託した金銭の所有権は、受託者であるご相談者様にあります。お母様が窓口に行っても、お金を引き出すことはできませんのでご注意ください。
上記1や2の他、本人以外が財産を管理する法律上の手続きとして、任意後見という制度もあります。こちらはお母様がお元気なうちから、万が一判断能力が低下した際に、面倒を見てもらう人(任意後見人)を決めておく制度です。任意後見制度はあくまでお母様の判断能力が低下したあとに、後見人による管理・身上監護が開始されますので、ご相談者様のお母様の判断能力が低下する前から、お母様以外が、お金を管理するといった目的は達成することができません。
今回ご紹介した3つの契約は、いずれか一方の判断能力が低下したあとでは契約を締結することができません。また、それぞれの制度はできることや費用が異なりますので、各制度の特徴を理解し、適切に選択・併用していくことが重要です。
ただし、法律および税務上の落とし穴(論点)が多く存在しています。望んでいた結果が発生しない、想定外の課税が発生するといった状況を避けるためにも、信託や後見を取り扱う弁護士や司法書士等の専門家にご相談ください。
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